F log
拙ブログ音楽(MusicじゃなくてMusikね)において一定のマスを占めているのがミサ曲やカンタータなどの宗教音楽です。
まぁブログの主人公である F と F 嫁の出会いがそれなんだから仕方ありません。
音楽と出会い 2005.04.16
かのヨハン・セバスティアン・バッハ先生の最高傑作にして 3 時間を超える演奏時間の「マタイ受難曲」ですよ。
それぞれの温度差あれ、夫婦でキリスト教の宗教音楽には馴染みがあります。
現在はふたりとも不義理をしていますが、その出会った団体である千葉県の老舗アマチュア合唱団「京葉混声合唱団」もよくブログに登場します。
京葉混声合唱団 第38回定期演奏会 2016.10.23
この 2016 年の演奏会から 2 年…
上記リンク最後に書いてあるように、再び京葉混声合唱団の歌声を聴くことが出来ました。
今回の演奏会はいわゆる定期演奏会ではありません。
京葉混声合唱団の指導者、藤崎美苗先生が同じく携わっている TRuMP さんという合唱団との合同特別演奏会となります。
お題は「特別」に相応しいバッハ先生のこれまた傑作「ミサ曲ロ短調 BWV232」です。
「特別」の所以は更にあり、この豪華なソリストを御覧ください。
また個人的にそれ以上に楽しみなのは、ピリオド楽器による TK オーケストラです。
なんとバッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーを中心とした国内外で活躍する精鋭ぞろいです。
いやいやアマチュア合唱団の伴奏にこんな贅沢な事ってあるでしょうか。
そんなこんなで F も F 嫁も超絶たのしみにしつつ、日曜日の青砥駅に降り立ったのでした。
トップ写真、かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール正面入口です。
今日はバッハ先生の日ですが、躍動感あふれるモーツァルトの立像がお出迎えです。
エントランスは正面に階段があり、小ぶりですが初台のオペラシティを思わせます。
登って右手がモーツァルトホールです。
早く着きすぎたのでヒルズの喫茶スペースでお茶してからこの階段にならびました。
全席自由席の3,000円というチケット価格はこのメンバーなら安過ぎます。
12時45分の開場とともにダッシュし、一桁列のセンター下手の席をゲット。
かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホールは綺麗なシューポックス型のホールでした。
オケの配置はヴァイオリンの後方台の上に 3 人のオーボエ。
上手側の台上 2 人はフルート、その後方 3 人はトランペットでした。
ソリストは更にその外側に 2 人づつ別れて着席です。
指揮者真正面には 2 人のチェロ、その後ろにコントラバス 1 人が配され通奏低音を奏でます。
当たり前ですが全員ピリオド楽器で期待が否が応にも高まります。
実際のステージ写真はブログ最初の京葉混声合唱団のウェブサイトに掲載されていますのでご参照ください。
指揮・アルト 青木 洋也
ソプラノⅠ 澤江 衣里
ソプラノⅡ 藤崎 美苗
テノール 櫻田 亮
バス 加耒 徹
コンサートマスター 原田 陽
管弦楽 TK オーケストラ
合唱 京葉混声合唱団
TRuMP
合同練習ピアニスト 齋藤 由美子
ブログの京葉混声合唱団の記事にはよく登場するピアニスト由美子先生のお名前もあって嬉しかったです。
そして BCJ からの青木さん、加耒さん、そして美苗先生、日本を代表するテノール櫻田さん、国内外で活躍する澤江さんというなんとも贅沢なソリストです。
BCJ のディスクや映像作品でよく拝見していたアルトの青木洋也さんが、指揮とアルトを兼任されるというのも楽しみでした。
プログラムを熟読している間に、振り向けば会場はほぼ満席。
二階席もけっこう埋まってます。まぁこの陣容なら当然でしょうか。
いよいよ開演時間となりました。
合唱団が静々と入場してくると期せずして拍手が沸き起こりました。
その後、オケが配置につき、ソリストの 4 人、指揮の青木さんが登場しました。
青木さんはイメージ通りのスラッとした長身、脚も長いので指揮の後ろ姿も映えます。
全員配置に着くと青木さんは指揮台に登り観客に背を向けた状態で長いこと集中していました。
観客も固唾を飲んで見守ります。
その集中が頂点に達したとき青木さんの腕が一閃、2 時間におよぶ大曲「ロ短調ミサ曲」が始まりました。
いや~冒頭の「Kyrie」で鳥肌が立ちました。
F の場合感動のバロメーターは両二の腕外側の鳥肌に他なりませんが、この日は第一音から来ました。
「キリエ」の「キ」のアタックが非常にハッキリしていてこれが全員揃うのは並大抵ではないなと。
同時に歌い終わりの発音も曖昧なところがなく、かつ全員がキレイに揃ってます。
冒頭数小節を聴いただけで、両合唱団のレベルの高さと豊富な練習量が伺い知れます。
第一Kyrieはとてもゆったりとしたテンポ。
Christe eleisonを挟んでの第二Kyrieはやや早めのペースで進みます。
個人的には第二Kyrieがすごく好きなので、青木さんが選択したこのテンポはたまりません。
後半たたみかける様な合唱の重層が、軽快ともいえるテンポでもたれずにスッキリ聴かせます。
これものすごく好きな演奏です。
ピリオド楽器のロ短調を生演奏で聴くのは、ムジークフェラインのトレヴァー・ピノック&イングリッシュ・コンサート以来かも。
一連のリヒターの演奏も素晴らしいですが、個人的にはやはり適度な編成の古楽器が好きですね。
華やかなテンポのGloriaから上手のトランペット隊が参加。
そしてこれまた大好きなEt in terra paxへと続きます。
こちらもゆったりとして合唱団の各パートの動きが手に取るように分かります。
バッハ先生の激しく上下に動きまくるパッセージもキレイに揃って聴こえます。
これだけ曖昧な部分が見えないのは本当に素晴らしいです。
美苗先生の独唱は美しく、ソプラノⅠとテノールの二重唱では美声の澤江さんと圧巻の櫻田さんを堪能しました。
澤江さんの伸びやかな高音部は聴いていて耳に心地よいです。
美苗先生の声には独特の…こういう言い方は失礼かもしれませんが独特の可愛らしさがあるんですよね。
やはり美苗ファンだわ、自分。
そしてQui tollisでの荘厳な合唱を経て、いよいよ指揮者である青木さんのアルト独唱です。
冒頭だけ振って曲をスタートすると指揮台からゆっくり降りて観客に向き直ります。
その時点で指揮者からソリストへと切り替わったのです。
オーボエ・ダモーレとの掛け合いであるアルトの独唱曲は素晴らしかったですね。
つい先程まで指揮していたのに今は完全なアルトの独唱者です。
指揮者不在時、オケの視線をたどるとしっかりとコンマスの弓を見ていました。
本当に素晴らしいですねこのオーケストラも独唱も。
青木さんが指揮台に戻り、ホルンとバスでの独唱が入ります。
バスの加耒さんはお若く細身の身体でありながらしっかりとバスでした。
バスの独唱が終わりかけると合唱団が一斉に立ち上がりました。
Gloriaの最終曲であり、盛り上がり必須なCum Sancto Spirituがいよいよ始まります。
五声の合唱曲であり華やかで迫力満点のフーガが連続してたたみかける様なクライマックスへと突入します。
指揮棒を持たず腕と手で表現する青木さんの指揮はカッコよかったですね。
素人なりにロ短調を聞きまくってる F ですから次にどのパートが歌い出すかは分かっているんです。
青木さんの指揮はたいへん情熱的かつ非常に丁寧で、ほとんどの合唱パート歌い出しに指示を振っていました。
合唱だけでなく例えばトランペットが加わりドーンと盛り上がる箇所では右手で大きくトランペットを煽ってました。
いや~ソリストとしての青木さんしか知りませんでしたが、この指揮ぶりはたいへん好きですし指揮者としての今後も楽しみです。
見事なクライマックスでCum Sancto Spirituは終了、第一部ミサ曲の大団円です。
満席の観客からは大きな拍手が送られました。
合唱団としても会心の出来だったのではないでょうか。
京葉混声合唱団もTRuMPも本当に素晴らしかったです。
休憩を挟んで後半、第二部ニケーア信経はバランスの取れた構成で、17曲Crucifixusを中心に対象型になっています。
好きなのはそのCrucifixusで合唱ソプラノの荘厳な響きです。
ド短調の曲ですが最後が長調に転じて終わるのが好きです。
その直後には華やかなトッティでEt resurrexitが待ってるわけです。
途中のバスと通奏低音の部分は男声の聴かせどころですが、うーん自分が知ってる京葉と違う(もちろん良い意味で)。
TRuMPさんの助けもありますが、京葉混声合唱団のレベルアップは尋常じゃないですね。
いまこの陣容で「マタイ受難曲」を聴いてみたいものです。
バス独唱~合唱曲を2曲挟んで第三部サンクトゥスへとなだれ込みます。
サンクトゥスの後半フーガが超絶カッコよかったです。
この部分も大好きなんだよなぁ~
もうロ短調はこの辺りから最後まで怒涛の展開で息を呑むしかありません。
第四部オザンナ・ベネディクトゥスはそんな熱狂のOsanna in excelsisから始まります。
Benedictusを挟んで繰り返されるOsannaは華やかではありますが合唱は難しいでしょうね。
Osannaの後奏は本当にカッコいいので好きなんです。
ここでもオケの素晴らしい演奏を堪能しました。
圧巻はそのOsannaに挟まれたBenedictusでした。
テノールの櫻田さんがフルート(フラウト・トラヴェルソ)の切ない伴奏にのせて超絶歌唱を聴かせてくれました。
これぞ木管というべきフラウト・トラヴェルソの鶴田さんは素敵でしたねぇ。
櫻田さんの切々たる歌唱と寄り添い、心に染み入る演奏でした。(故A女史に京葉と共演した櫻田さんを聴かせたかった‥)
そういえば全曲を通じてオケで一番印象に残ったのは、BCJオーボエ・ダモーレ主席奏者である三宮さんの演奏でした。
あ、映像で見たことある人がいる(笑)と思ったのもつかの間、その演奏は圧倒的でした。
2本のオーボエを駆使するその演奏は、音色の抜け、存在感、トランペットが三人固まっても負けない音の芯。
どれもが一級品でした。オケは全員素晴らしかったですが、三宮さんの演奏をすぐ近くで聴けたことはオーボエヲタの F としては大感動でした。
二度目のOsannaが終わると、これもある意味ロ短調のクライマックスであるアルト独唱Agnus Dei(神の子羊)です。
ここまで2時間近く情熱的な指揮を続けてきた青木さんが、最後になってアルトの独唱をせねばなりません。
正直、少し心配でした。
精力的でアクションの大きな振りでしたし、相当体力を消耗しているはず。
他のソリストは出番が無いときは座って休んでられますが、今日の青木さんはずっと指揮してるんですから。
いままでの様にオケをスタートさせてゆっくり指揮台から降りました。
汗を拭って観客の方に向き直り、弦の切々たる伴奏に乗ってAgnus Dei~と歌い出した瞬間、その心配は杞憂だと分かりました。
あれほど指揮者として動いていたのに見事なまでに抑制されコントロールされた歌唱。
まったく指揮兼任であるとは信じられません。
ここまで指揮してきてこの独唱を歌うのは誰でも出来る技ではありません。
青木さんの素晴らしい芸術家ぶりを実証した見後なソロでした。
Agnus Deiが終わりに近づくと、嗚呼ロ短調も終わってしまうのだと悲しい気持ちになります。
最終曲はDona nobis pacem(我に平和を与え給え)。
ゆったりとしたテンポで丁寧にオケ、合唱が歌い上げます。
仕事を終えたソリスト4人も最後は合唱団に加わり音の厚みを増します。
この超絶美しい合唱曲Dona nobis pacemはたったの3分強で終わってしまいます。
この曲だけ延々と聴いていたい(笑)
宗教音楽を 2 時間とか狂気の沙汰だ、と仰る向きはせめてこの曲だけでも聴いてみてください。
キリスト教音楽の美しさ、荘厳さ、祈りはこの3分間に凝縮しています。
今回の演奏ではもちろんありませんが、バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏をどうぞ。
今回参加のメンバーも多数映っています。
Dona nobis pacem - BCJ on Blu-ray
合唱、オケが最後の音を奏で、指揮の青木さんの手が静止しました。
その瞬間、満員の観客から地鳴りの様な拍手が沸き起こりました。
惜しむらくは拍手は青木さんの腕が下に降りてからにして欲しかったですが…
いやもうちょっと余韻を楽しみたかったのよ。
それはともかく、京葉混声合唱団&TRuMP特別合同演奏会「ミサ曲ロ短調」は本当に素晴らしい演奏会でした。
期待は高かったのですが、それを遥かに超えて感動的な演奏でした。
終演後ごった返すロビーで懐かしい京葉の団員さん何名かとお会いできました。
TRuMPの皆さんもこの夜はさぞかし旨いお酒を飲めることでしょう。ありがとうございました。
バッハ・コレギウム・ジャパンからのソリストやオケの皆さんもお疲れ様でした。
身近な合唱団で皆さんの演奏を聴くことが出来たのはたいへんな幸せでした。
両合唱団を率いる藤崎美苗先生のご人脈とはいえ、箸にも棒にもかからない合唱団では BCJ の食指が動くはずもありません。
これだけのサポートをして頂いたのは、京葉混声合唱団、TRuMPの底力に他なりません。
京葉混声合唱団団員の皆さん、スタッフの皆さん、指導の藤崎先生、齋藤先生、本当にお疲れ様でした。
2 年間かけたかいのある京葉混声のひとつの頂点を聴かせて頂きました。
この演奏会を聴けた思い出は長く長く残ると思います。