F log
珍しく土曜日が休みになった F が、F 嫁と初台の東京オペラシティコンサートホールへと向かいました。
期待大の演奏会を聴きに行く為です。
そもそもの出会いがバッハの宗教音楽だった 故、F & F 嫁はともにキリスト教の音楽が大好きです。
ふたりとも実家は日蓮宗なんですがね(笑)
バッハ・コレギウム・ジャパン 第115回定期演奏会 W.A.モーツァルト : ミサ曲
その名の通り J.S.バッハを本流とするバッハ・コレギウム・ジャパン (BCJ) ですが、
他作曲家の演奏にも定評のあるところです。
モーツァルトの演奏は 2006 年から始まっており、幸いにもその最初を聴くことができました。
初めてのモーツァルト 2006.12.18
佐倉市民音楽ホールでの演奏会で、ヴェスペレ&レイクエムという当時 F の二大好きな曲という幸せでした。
リンク先を見ると拙い感想ながら当時の感動が蘇ります。
その後もレクイエムは再演されているようですが、久しぶりの BCJ モーツァルトに興奮を隠せない F です。
今回はいつもお世話になっているトミーさんの御厚意でこの演奏会のチケットを手にすることができました。
結果、素晴らしい音楽を聴くことが出来、トミーさんには感謝、また感謝なのであります。
さて肝心のプログラムは…
雀のミサ K.220
エクスルターテ・ユビラーテ(踊れ、喜べ、幸いなる魂よ) K.165
休憩
ミサ曲 ハ短調 K.427
というオールモーツァルトの宗教曲、名曲揃いのプログラムです。
特に後半のハ短調ミサは大大大好きな曲なので本当に嬉しく思います。
そしてソリスト他は‥
ソプラノ:キャロリン・サンプソン
アルト:オリヴィア・フェアミューレン
テノール:櫻田亮
バス:クリスティアン・イムラー
管弦楽・合唱 : バッハ・コレギウム・ジャパン
指揮 : 鈴木雅明
BCJ と協演を重ねているキャロリン・サンプソンが楽しみでなりません。
RICOH GR
いつものように強風吹き荒ぶ初台駅を昇って行くと東京オペラパレスです。
この撮影場所から左を向くと、新国立劇場の入り口があります。
オペラシティコンサートホール・タケミツメモリアルはこの先にあります。
RICOH GR
水面に写るオペラパレス東京の文字が面白くて何度もこの場所でシャッターを切ってしまいます。
RICOH GR
オペラシティ定番のサブウェイで食事してから大階段を昇ってコンサートホールへ向かいます。
すると階段の途中でウェデングドレスの新婦と白いタキシードの新郎が記念写真を撮っていました。
ふたりとも若くて美男美女、まるで式場のパンフレット撮影のモデルさんみたいでしたが挙動は完全に素人。
実際に式を挙げてこのロケーションで記念撮影を行っているカップルのようです。
コンサートホールへと向かう人々に祝福されつつ、滞り無くスチル、ビデオともに撮影が終わりました。
ふたりの幸せにあやかりたいものです。
RICOH GR
回り道が多いのが拙ブログの特徴ですがやっと入場です(笑)
あいかわらず美しいタケミツメモリアルで、この写真からちょっと進んで見上げるとトップ写真となります。
自然光 (この日は遮光させていました) が取り入ることの出来る見事な造形ですね。
下半分はシューボックスなんですが、この天井高はたいへん特徴的だと思います。
RICOH GR
トミーさんの御厚情で座った座席は前から三列目!
平地ですが座席が千鳥配置となっており、見難さはまったくありません。
そして F の位置はなんと 4 人並んだソリストのソプラノ正面。
この日のプログラムからしてソプラノが大活躍することは想像に難くなくたいへんな良席です。
オケが先に登場しチューニングの後、合唱団が入ってきました。
椅子の数が 24 席ということは各パート 6 名でしょうか。
いやいや K.427 は各パートが 2 つに分かれるので、パートごとは 3 名です。
大人数の合唱経験しかない者に言わせれば恐怖以外の何者でもありませんね。
まぁ来年はクイケン&ラ・プティット・バンドが各パート 1 名で日本に来襲するみたいですが。
またまた話がズレました。
我らが藤崎美苗先生 は左側のソプラノ 6 人衆の中にいらっしゃいました。
ロパートキナを思わせるベリーショートの髪型は健在。
あいかわらず周囲がパアッと明るくなる華を背負ってらっしゃいます。
拍手とともに夫婦で手を振りますがもちろん気づかれません(笑)
ミサ曲 ハ長調 KV220
「雀のミサ」の愛称で知られる 15 分程度の短いミサ曲です。
所有ディスクも少なく正直あまり馴染みの無かった曲ですが、この日を境に断然好きになりました。
ソリスト 4 名につづいてバッハ・コレギウム・ジャパンを率いる鈴木雅明さんが入ってらっしゃいました。
長めの白髪をなびかせ颯爽と歩くお姿はたいへん若々しく、気力が漲ってらっしゃるのがわかります。
F 嫁はソリストの女性ふたり、特にメゾ・アルトのオリヴィア・フェアメーレンの美貌に注目。
盛大な拍手ににこやかに答え、ソリスト、指揮者が位置につきました。
鈴木雅明さんは観客に背を向けると静かに集中しているようでした。
スッと指揮棒を持たない両手が上がりその位置で静止しました。
観客1,500人超も息を止めてその瞬間を待ちます。
マエストロの全身が躍動する直前、息を思い切り吸い込む呼吸音がハッキリと聴こえたのです。
次の瞬間、渋い造形のティンパニを始めとしてオケのトゥッティがタケミツメモリアルに鳴り響きました。
F はこの一瞬をもってモーツァルトと鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパンの魔法にかかったのでした。
なんと美しくキビキビした歯切れの良い音なのでしょう。
コンサート最初の総奏で鳥肌が立つというのも珍しい事です。
マエストロの吸った息が凝縮されて全身からエネルギーとして解き放たれ、オケが一切の迷いなくそれに応えます。
短いイントロ後に登場する合唱にも同じことが言えます。
ミサ曲なので Kyrie eleison Christe eleison (主よ憐れみ給え、キリストよ憐れみ給え)しかないわけです。
それが美しく息もぴったりな合唱団の手にかかるとこれほど活き活きと響き渡るのですね。
続いての Gloria でも合唱団の美しさはますます光り、ほぼセンターなので男声女声の対比が見事です。
ソリスト 4 名はいずれも素晴らしいですね。
中でも本日の主役であろうキャロリン・サンプソンはもろに F の好みであります。
声楽の好みというのは音楽の好みとリンクしており、F でいえばオペラより宗教音楽なんです。
盛大なヴィブラートがかかったドラマチックソプラノはどちらかといえば苦手なんです。
誤解を恐れずにいえばボーイソプラノがそのまま女声化したような透き通る声が好きです。
もちろん大人の女声ならではの表現力がそれに加わるわけです。
キャロリン・サンプソンのソプラノは、短いミサ曲の前半を聴いただけで虜になりました。
その慈愛に満ちた表情もまた魅力的であります。
Credo でのオケのスピード感は素晴らしかったですね。
またそれを導き出すマエストロの指揮が情熱的なんです。
中間部の静謐さも本当に見事でピアニッシモの合唱が天井に消えていく様は思わず天を見上げてしまう程です。
その後はアタックがキリッとしたオケとともにソリスト合唱が一体化した演奏でした。
Sanctus では例の小鳥の囀りに似た弦が鳴ります。
F 嫁にその箇所を手で合図したらわかって納得したようです。
Benedictus ではソリスト 4 人がそれぞれ見せ場を持ちつつ歌います。
バスのクリスティアン・イムラーは髭を蓄えていかにも宗教音楽を歌うにふさわしい魅力をもっています。
声も深みのある腹に響く音量でもっと活躍する宗教曲で聴いてみたいですね。
テノールの櫻田さんも全身を駆使したコントロール自在の美声を聴かせてくれました。
Benedictus が来たということはもう Agnus dei で終わりなわけです。
ミサ曲を聴くといつも思うのですが、Sanctus 辺りでもう終わりなんだと寂しくなるんです。
Agnus deiの最後、dona nobis pacem で冒頭 kyrie の主題が再び奏でられ、短くもチャーミングなミサ曲は終わりを迎えました。
マエストロが音楽を止めた手をゆっくりと下ろすと、客席から万雷の拍手が響き渡りました。
ソリストもオケも合唱団もみな満足そうな表情をしています。
観客としても大満足な十数分で、この後の 2 曲に抱いた期待が何倍にも膨らむ素晴らしい演奏でした。
様々な雀の囀りをもっと聴きたいと思わせるバッハ・コレギウム・ジャパンによる K.220 でした。
(アーノンクール指揮による同曲)
エクスルターテ・ユビラーテ(踊れ、喜べ、幸いなる魂よ) K. 165
モーツァルト天才の証明のひとつとされる 17 歳の時に書かれた初期の名曲。
ソプラノとオーケストラの協奏曲ともいわれるモテットでソプラノ歌手の見せ場中の見せ場です。
F はこの曲に関して大好きなソプラノ、バーバラ・ボニーの歌で刷り込まれてます。
合唱団がいったん引き上げ、オケも若干縮小されたコンパクトな舞台で軽快なイントロとともにキャロリン・サンプソンの声が響きました。
一聴して見事に引き込まれました。
ボニーちゃん(と昔から呼んでいるんです。すみません)の声は、例えるなら天上の神様の横にいる天使の声。
キャロリン・サンプソンのそれは、美しさでは匹敵しさらに声に芯があります。
より生身に近い歌声といったらいいんでしょうか。
目の前 5 m で生で歌われているというのも影響してか、たいへん好感を持ちしました。
プログラムのインタビューにもありますが、若い頃からのレパートリーで歌い込んでいるとのこと。
にこやかな表情にもその余裕が現れています。
低音域から一気に駆け上り、一般に玉を転がすようなと称されるコロラトゥーラが美しすぎます。
細かなトリルが連続する時、身体の脇に添えられた右手の指が合わせて小刻みに動くのが見えたのは前方列ならではでしょうか。
連続して終曲のアレルヤに雪崩れ込んだ演奏ですが、ここまでで気づいたのはオケの力強さです。
数多の演奏を聴くとソプラノの伴奏に終止しているものも見受けられます。
鈴木雅明さん統べるバッハ・コレギウム・ジャパンは、キャロリン・サンプソンの美声と渡り合います。
アレルヤ開始からすぐ後、アレルヤと歌う前にオケがドン、ドン、と 2 発短い合奏を入れます。
バッハ・コレギウム・ジャパンのそれはスタッカートの効いたたいへん鋭い 2 音でした。
強いアタックで奏でるからこそ、キャロリン・サンプソンの柔らかいアレルヤが生きるのだと思いました。
もうアレルヤ後半は圧巻の一言でしたね。
ただただ聞き惚れるのみでした。
終演後は盛大な拍手とともにブラボー、ブラビーの嵐でした。
(バーバラ・ボニー歌唱による同曲よりⅠ.アレグロのみ)
休憩 20 分
RICOH GR
エントランスにあった仮屋崎さんのクリスマスツリーはイマイチ趣味じゃなかったので大階段の上のものを。
この背後で先程の新郎新婦が写真を撮ってます。
ミサ曲 ハ短調 K. 427
最も最初に好きになった宗教音楽は同じくモーツァルトのレイクエム K.626 でした。
短調好きとしては当然ともいえる選択ですが、県民合唱団で同曲を歌ったのが合唱デビューとなりました。
その後ヴェルレクを経て先にリンクしました F 嫁との出会いとなるマタイ受難曲へと続くわけです。
なのでモーツァルトの宗教曲は大袈裟ではなく F の人生を変えたということになります。
映像作品の初期、レーザーディスクでジョン・エリオット・ガーディナーのモーツァルト演奏がありました。
片面にレイクエム、もう片面がミサ曲ハ短調 K.427 だったんです。
当時はレクイエムばかり視聴していたので、ハ短調はずいぶんほったらかしでした。
DVD 時代になって同作品を買い替えた頃からハ短調ミサを聴くようになりました。
聴き込んでいくにつれ、どんどんハ短調ミサが好きになって今では完全に逆転しています。
なので K.427 がメインの演奏会、それも大好きなバッハ・コレギウム・ジャパンとなれば期待値はマックスです。
ましてや前半のプログラムであれほど素晴らしい演奏を聴き、ソリストも万全とあってはワクテカするなという方が無理な話です。
バッハ・コレギウム・ジャパンを率いる鈴木雅明さんが今回の演奏会について語っている映像です。
プログラムの中でも詳細な解説がありますが、実際にマエストロの声でモーツァルトについて聞ける貴重な動画だと思います。
休憩が終わって席に戻ると気づいたことがあります。
オケの椅子が増強されているのは想像しましたが、ソリスト用の 4 脚が指揮台左右ではなく舞台の左右に分かれて置かれていたのです。
この配置を見た時、一瞬ですがガッカリしました。
というのは後半 Sanctus から Benedictus に移行する際、ソリストが移動する間が生じるということです。
何が言いたのかというと後で映像を貼り付けるガーディナー版は、そこを一呼吸だけの間でほぼ連続して演奏するのです。
あまりに愛聴していたのですっかりそれが刷り込まれてしまいました。
なので他の優秀な演奏を聴いても、間が開いていると少し物足りなく感じてしまうのです。
ロランス・エキルベイ&アクサンチュスの演奏は大好きですが、編集で短縮されていてもかなりの間が開いているのが残念です。
まぁ曲や演奏の優劣にはまったく関係のない超個人的趣味の話でした。
もちろんこの日の素晴らしい演奏の価値を 1mm たりとも減じるものではありません。
前半同様、オケが配置についてから合唱団が入場して来ます。
今回はソプラノ、アルト、テノール、バスの各パートが半分づつ左右に分かれています。
美苗先生は向かって右のソプラノ 2 のセンターに位置しています。
センターといってもソプラノ 2 は 3 人しかいないのですが。
要するに真ん中が空いて左右にバス、その外側にテノール、アルト、ソプラノと広がっていきます。
F & F 嫁の座席はほぼ中央ですから、左右幅いっぱいからソプラノがステレオで聴こえることになります。
ソリスト 4 人とマエストロが入場して来ました。
真ん中で挨拶してソリストは左右に、マエストロは指揮台に上り観客に背を向けました。
短い集中からゆっくり手を上げ、K.220 とは違った静かな振りでモーツァルトの傑作ミサ曲は始まりました。
曲が始まって驚いたのはそのテンポがかなりゆっくりだったことです。
古楽器オケは一般的にテンポは速いとの先入観がありましたからけっこう驚きました。
イントロだけでとても印象的だったのは金管、とくにトロンボーンの柔らかい響きです。
3 本とも外国人の演奏家でしたが、トランペット、ホルンはすべて日本人の方でした。
合唱が歌い出すと荘厳な響きが天上高く舞い上がります。
いやぁ本当に鳥肌モンです。
最初の総唱が終わってソプラノだけになるところなど、その透明感に唖然とする程です。
そこからアルト、テノールと重層的に加わっていき、バスとオケのトゥッティが重なる部分では荘厳さに身震いします。
その後合唱がピアニッシモになると、いよいよ天上からの歌声が降りてきます。
K.427最初の落涙ポイント、ソプラノのソリスト歌い出しです。
Christe eleison (キリストよ憐れみ給え)
歌詞はこれだけなのにどうして人はそこに究極の美を聴くのでしょう。
思わず仏教からキリスト教信者に改宗たくなる程です。
キャロリン・サンプソンの歌声は F がまさに理想とする宗教曲のソプラノ。
その声が目前から生で鼓膜を震わすのですから、共鳴して魂も震えようというものです。
クリ~ステ~のクリで充分に巻いているにも関わらず嫌味にならず本当に美しい声、発音です。
タ行、カ行のアタック音もハッキリしていながら優しく見事としかいいようがありません。
低音から高音まで駆け上るコントロールも素晴らしく微塵の不安もありません。
そして大好きな eleison eleison eleison と柔らかく 3 回繰り返し合唱団が弱音で追従する箇所です。
映画「アマデウス」でサリエリがモーツァルトのオリジナル直筆譜を読んでそれを取り落とし、
絶望の淵に叩き込まれるときの BGM がまさにそこのメロディなんです。
もちろん映画ですからフィクションですが、サリエリをして「なぜ神に選ばれたのはあの男なんだ」
と嘆かせるのにふさわしい究極に美しい旋律だと思っています。
曲冒頭から数分でこのペースじゃいつまで経っても終わりませんな。
Gloria ではオケの明快さ、歯切れの良さが印象的でした。
Laudamus te でソロに立ったオリヴィア・フェアメーレンの歌唱も素晴らしかったですね。
Domine deus で聴かせるサンプソン、フェアメーレンの二重唱も融け合って美しい歌声でした。
劇的ではありますが冒頭や終曲の派手さはない Qui tollis はこの曲の中で最高に鳥肌が立ったパートでした。
正直に言えば今までこのパートをどちらかといえば軽んじていしました。
バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏を生で聴いて、音楽的詳細は分からずともここがどんなに素晴らしかったのか再認識した次第です。
劇的なオケの演奏で始まり Qui Tollis と歌う合唱も左右に同じパートを分けた効果が抜群に出ています。
左のソプラノ 1 から始まり、右のソプラノ 2 が加わるとセンターの席では正にステレオ効果。
本当にゾクゾクしました。
そこからオケと合唱が急にピアニッシモになり、強奏が響き終わっていない空間に弱音のソプラノが加わる瞬間はたまりません。
どんどん合唱はクレッシェンドしていきオケも再びアタック強く奏でるところでは、めくるめく音の洪水に思わず目を閉じてしまいました。
再度書きますがこの Qui tollis は本当に素晴らしかったです。
Quoniam ではテノールが加わりソプラノ、アルトと三重唱となります。
女声ふたりはもちろんですが、テノールの櫻田さんも素晴らしい歌唱でした。
後に知ったのですが、櫻田さんは F & F 嫁の縁結びの神である故 A 女史のお知り合いだったそうです。
A 女史がご存命ならば、櫻田さんのお話しをたっぷり聞けたのに…
この曲に関してはテノールと特にバスは活躍の場が少なくて気の毒ですね。
Jesu christe ~ Cum sancto spritu は前半の締めともいうべきスケールの大きな曲です。
合唱の Jesu christe は短いながら荘厳な響きだし、Cum sancto spritu の見事なフーガはいつまでも聴いていたいと思わせます。
フーガ好きなんですよ。
音楽的論理はよくわかりませんが、カッコイイじゃないですか。
最後は Amen の合唱で輝かしくパートを閉じました。
Credo 冒頭ではマエストロの指揮一閃、疾走する弦楽のアタックと木管の響きが見事な対比を醸しています。
何度も書きますがオケの歯切れの良さはとても印象的で、宗教音楽は退屈だつまらないという向きにぜひ聴いてもらいたいと思います。
Et incarnatus est は再びソプラノのキャロリン・サンプソンの見せ場です。
F 嫁曰く、彼女はマリア様みたいだわと。
確かに微笑みを浮かべながら天上の声を発するのを聴いているとそのようにも思えてきます。
フルートが参加しオーボエとともに美しいソプラノをサポートします。
しかし古楽器の木管の美しさといったら何と表現したらよいのでしょう。
そもそも言葉で伝えるのは無理なので、ぜひともコンサートホールでその響きを聴いて欲しいと思います。
Sanctus のトゥッティが鳴り響くと曲ももう終わりが近づいてきたということで悲しくなります。
とはいえお歳を感じさせないマエストロの情熱的な指揮で、オケも合唱も燃え上がってよう感じます。
一瞬の休止の後、Hosanna が始まりました。
これまた超絶にカッコいいフーガなんです。
ソプラノが高音から駆け下りてきて再び舞い上がる速いパッセージを歌うところは本当に好きです。
それが耳の左右から飛び込んでくるのですからこの上ない幸せです。
in eacelsis の連呼で Sanctus のパートが終わりました。
前述した「間」ですが、やはりソリストが中央に集まってくる時間だけ間はありました。
でもオケもマエストロも臨戦態勢のままでソリストが揃うとすぐに Benedictus が始まりました。
バスのクリスティアン・イムラーはこの瞬間まで一声も歌っていなく気の毒でしたが最後に素晴らしい響きを聴かせてくれました。
彼は風貌からしてイエスっぽいですし、その豊かな声量で受難曲等でも聴きたいですね。
この 4 人の四重唱は文句のつけようもなく美しく見事なハーモニーでした。
再び前述した大好きな合唱ソプラノのパッセージが登場し、Hosanna in eacelsis の合唱で全曲を締めくくります。
最後の in eacelsis 部分は演奏によってはゆっくりテンポを落としていわゆる見得を切る場合もあります。
バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏はほとんどテンポに変化がなく疾走したまま終わりを迎えました。
マエストロの熱量高い指揮からすれば個人的にも大賛成なところです。
この日の観客はマナーを心得た方ばかりで、フライング拍手やブラボーもなくマエストロの両手がゆっくり降ろされてから嵐のような拍手が沸き起こりました。
カーテンコールも気持ちのよいものでした。
(前述のガーディナー版)
RICOH GR
演奏が終わって退場するオケや合唱団の皆様が下手へ退場していきます。
ステージ前に駆け寄って美苗先生にアピールしましたが残念ながら気づいていただけませんでした。
F & F 嫁が知り合った県内老舗のアマチュア合唱団にヴォイストレーナーとして来て頂いたまだ学生さんだった美苗先生。
その後、
同合唱団の指導を引き継ぎ、我々夫婦が不義理にも退団した後もご指導を続けて頂いています。
バッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーを始め、プロの声楽家としてご活躍です。
この日は久しぶりに合唱の中とはいえ美苗先生の美声を聴けて嬉しかったです。
この F の心眼ならぬ心耳ではハッキリと分かりましたよ、ソプラノ 2 の中から響く美苗先生のお声が。
そのバッハ・コレギウム・ジャパンが演奏するモーツァルトは本当に素晴らしかったです。
ハ短調ミサ曲 K.427 は数多聴いて来ましたが、個人的には間違いなく本日の演奏がその No.1 です。
K.220 の魅力と、K.427 Qui tollis の深みにも気づかせてくれたマエストロにも感謝します。
是非レクイエムに続くモーツァルト第 2 弾のレコーディングとしてこの日のプログラムをご検討ください。
そして演奏者の息遣いが聴こえる良席をお譲りいただいたトミーさん、本当にありがとうございました。
音楽に造形の深いトミーさんが同じ席で聴いていたら、このブログの何倍も素晴らしい感想をお書きになると思います。
それは叶いませんでしたが、拙い感想によって昨日の演奏を心から楽しんだ一端でもおわかりいただけたらと思います。
最後に、バッハ・コレギウム・ジャパン大好きです。