F & F 嫁 log
2 月 27 日木曜日、F 嫁と
アメリカン・バレエ・シアター日本公演 2014 の 「マノン」初日を観てきました。
直近の日曜日にイベントが入ったため二週間近い連続勤務中でしたが、疲れも眠気も吹っ飛ぶ素晴らしい舞台でした。
仕事を早く切り上げて F 嫁とともに上野に出発です。
駅構内で軽く食事をしてから東京文化会館へと向かいました。
エキナカ改装前はイートインがある駅弁屋さんで今日はどこのを食べようかと悩むのが楽しみでした。
駅弁屋さんはありますが食べるスペースがなくなってしまったのが残念です。
この日はカウンターのみの
小さなお寿司屋さんで軽くつまんで から行ってきました。
JA の公演ブログ からの出演者は以下の通りです。
2014年2月27日(木) 6:30p.m〜9:10p.m.
≪マノン≫全3幕
振付・監督:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
編曲:マーティン・イエーツ
舞台指導:ジュリー・リンコン、内海百合
舞台装置・衣装デザイン:ピーター・ファーマー
照明:クリスティーナ・ジャンネッリ
指揮:オームズビー・ウィルキンズ
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
<出演>
マノン:ディアナ・ヴィシニョーワ
デ・グリュー(神学生):マルセロ・ゴメス
レスコー(マノンの兄):ダニール・シムキン
レスコーの情婦:ミスティ・コープランド
ムッシューG・M:ヴィクター・バービー
流刑地の看守:ロマン・ズービン
マダム:ニコラ・カリー
物乞いの頭:アロン・スコット
高級情婦:ジェマ・ボンド,メラニー・ハムリック,ローレン・ポスト,
エイドリアン・シュルツ,カレン・アップホフ
女優:コートニー・ラヴァイン,小川華歩,ルシアーナ・ヴォルトリーニ,ポリーナ・ワスキー
紳士:アレクセイ・アグーディン,グラント・デロング,ルイス・リバゴルダ
客:トーマス・フォースター,ブレイン・ホーヴェン,ダンカン・ライル,ダニエル・マンタイ,エリック・タム
情婦:相原舞,アレクサンドラ・バスメイジー,ブリタニー・デグロフト,エイプリル・ジャンジェルーソ,ニコール・グラニエロ,
ガブリエル・ジョンソン,ジェイミー・コピット,カッサンドラ・トレナリー,リーヤン・アンダーウッド,ジェニファー・ウェイレン,
ステファニー・ウィリアムズ,リリー・ウィズダム
物乞い:ケネス・イースター,スンウー・ハン,ジョナサン・クライン,パトリック・オーグル,カルヴァン・ロイヤル,ゲイブ・ストーン・シェイヤー
老紳士:クリントン・ラケット
宿屋の主人:ガブリエル・ジョンソン
女中:ジェイミー・コピット
町の女性:コートニー・ラヴァイン,小川華歩,カレン・アップホフ,ルシアーナ・ヴォルトリーニ,ポリーナ・ワスキー
駐屯兵:ケネス・イースター,トーマス・フォースター,ブレイン・ホーヴェン,ジョナサン・クライン,ダンカン・ライル,ダニエル・マンタイ,
カルヴァン・ロイヤル,エリック・タム
なんといっても目玉は ディアナ・ヴィシニョーワ のマノン、そして
ダックス王子 こと マルセロ・ゴメス のデ・グリューです。
このふたりが演じる世界はたいへん情熱的なだけでなく技術に裏打ちされた素晴らしいものでした。
RICOH GR
「マノン」を一日だけ(予算の関係‥クッ)なら絶対にこのキャスト、と気合を入れて取った席は下手側最前列!
ついいつもの習慣で双眼鏡を 2 つ持って来てしまいましたがまったく不要だったことは言うまでもありません。
個人的な考えですが演目によって鑑賞する位置をなるべく変えるようにしています。
もちろん大好きなダンサーは近くで観たいのですが、最前列ではコール・ドのフォーメーションがよくわかりません。
「マノン」でいえば群舞の見せ場もありませんし、主役のふたりをたっぷりこってり鑑賞するにはなるべく前がいいかなと。
オケピがあるので汗こそ飛び散ってきませんでしたが、ふたりの息遣いが聞こえるかぶりつきは感涙モノでしたよ。
レスコー
マノンの兄。
金のためにエロじじいに実の妹を売る鬼畜であり、世俗の垢にまみれた策略家で恫喝恐喝も辞さない荒くれ者。
これ少なくとも F & F 嫁が知るダニール・シムキンのイメージとはまったく合致しませんでした。
皆さまも危惧されていたように、シムキンのレスコーというのはかなり冒険的なキャスティングと思われました。
緞帳が上がると暗い舞台の真ん中にポツンとレスコーが座っています。
音楽が流れる中、微動だにしないレスコーは全身かわ不穏な雰囲気を醸し出さねばなりません。
シムキンには
小林紀子バレエシアターの公演 でレスコー役のダンサーが若者過ぎた違和感を予想していました。
個人的に好きなのはロイヤル・バレエのロホ&アコスタで映像に残っている「マノン」におけるホセ・マルティンのレスコーなんです。
目に飛び込んできたシムキンは帽子を目深に被っておりその表情が窺えません。
ところが動き出すと予想していた違和感は感じず、かえっておもしろいレスコー像でした。
舞台が進むにつれ失礼ながら意外なほどの演技巧者ぶりに感心しました。
マクミランの舞台は端から端まで舞台上すべての人々が演技しているといっても過言ではありません。
シムキンのレスコーは本人が一生懸命研究して努力しているのが感じられ、それなりに批判はありますが自分は好きです。
マノン役がヴィシニョーワだけに姉・弟とも言われますがまぁそれもありでしょうw
ただ気になった点は 2 つ。
ひとつはやはりデ・グリューを力で押さえつける第 1 幕 2 場の最後でしょうか。
ゴメスの体格がいいだけにちょっと苦しいですね。
もうひとつは酔拳ならぬ酔踊の場面です。
シムキンの運動能力がずば抜けて高いことはよく知られていますので、酔った踊りをしても難度の高いパを組み込んできます。
ここはもっと「技」を端折ってもいいのが「酔」の方に傾注して欲しかったところです。
まぁただの千鳥足になってしまってはバレエでなくなるのでそのバランスは難しいところだと思いますが。
キャストでもっとも心配だったシムキンのレスコーは F & F 嫁とも「意外と良かった」という結論でした。
この印象は細かな表情まではっきりとわかる最前列で観たものであり、後方または上階からの感想はまた違うものになるかもしれません。
そのテクニックと華から主役の王道を歩むのかと思っていましたが、様々なキャラクテールに挑戦してもおもしろいのではないでしょうか。
いずれにしてもシムキン再評価の場となったレスコー役でした。
マノン
ABT プリンシパルのディアナ・ヴィシニョーワ最高でした。
乏しいバレエ鑑賞体験ではありますが F & F 嫁史上最高のマノンであり、この日客席に居られたことを感謝したいと思います。
マノンという役はわかりやすい直球勝負の役ゆえに難しいといわれます。
修道院入りを控えた少女〜恋に突っ走る女〜物欲につられ金持ちの愛人〜投獄からの流刑〜逃避行の果ての死。
どれをとっても難物でその役柄すべてを説得力を持って繋がなければなりません。
ドラマや映画のようにぶつ切りで収録できるわけもなく、3 時間弱の連続した生の舞台で表現することが求められます。
馬車から降り立ったヴィシニョーワのマノンは本当に純真無垢な少女でした。
コートや帽子の預け方ひとつとってもそれが巧みに表現されていました。
デ・グリューとの出会いはまさに一期一会。
初めて会って警戒するところから始まって徐々に心を開いていく過程が第 1 幕 1 場の PDD に見事に結実していました。
2 場の「寝室のパ・ド・ドゥ」はその印象的な音楽とともに「マノン」を代表する場面として強く印象に残ります。
F がマノンといって口ずさむのはまずここの音楽ですね。
ヴィシニョーワとイーゴリ・コールプ様のマリインカコンビによる寝室です。
いゃあ本当にカワイイですねヴィシニョーワが。
ロシア人民芸術家である大スターに対してカワイイとはなんですが、デ・グリューが好きで好きでたまらないという心情が溢れ出ています。
少女から(精神的な)娼婦までトップダンサーというのはとりわけ優れた俳優であるとあらためて思います。
そしてすべてにおいて滑らかであり鋭くもあり、ためるところと爆発させるところの対比の妙。
嗚呼、芸術家の至芸とはこういうことを指すのだなと実感した次第です。
ヴィシニョーワの体躯は限りなく柔らかくしなやか、それでいて回転はものすごく鋭くシャープです。
上記動画で曲が転換する 03:07 過ぎの片手サポートでの回転はもの凄かったですね。(この動画ではちょい軸がズレてます)
バレエフェスでしたっけ、東バにゲストで出た「ジゼル」でのポワントから火が起こせるのではと思わせるような加速ぶりでした。
04:18 〜の手をつないでバランス取りつつ回るシーンもこの動画の体感倍速でしたよ。
04:41 に音楽が頂点に達した後、ダブルで回転を入れてますが当日もあったように記憶しています。
その直前にコールプ様がアドリブでヴィシニョーワの肩にキスするのがイイですね。
(ゴメスは寝室のエンディングでヴィシニョーワの胸から首、顔とキスの嵐を降らせていました。これもアドリブでしょう)
その後マノンは 2 回、高々とリフトされるわけですが、その 1 回目と 2 回目の間。
上記動画でいえば 04:58 〜 デ・グリューの短いパを待っている間のヴィシニョーワの表情がたまりません。
これを生でしかも数メートルの距離から観たのですから鳥肌も立とうというもの。
この「寝室のパ・ド・ドゥ」はおそらく生涯思い出に残る名演だったと思います。
「沼地のパ・ド・ドゥ」は壮絶でした。
ヴィシニョーワのヘロヘロぶり(もちろん褒め言葉)は際立っていて、F 嫁などは「上野公園を走ってきたのでは?」と言っていたほどw
それでいて空中ではトリプルアクセルもかくやという空気を切り裂くような回転ぶり。
空中高くより顔面から床に落下するようなダイブ、そして背後から手を伸ばしてくれる相手を信じて虚無にむかって飛び込む勇気。
劇的な音楽とともに主役 2 人の息の合ったなんて生易しいものではない、一心同体の踊りにたいへん感銘を受けました。
ディアナ・ヴィシニョーワのマノンは経験による芸術的な解釈と運動能力がこれ以上ない高い次元で交差しているまさに絶品でした。
3 月 1 日の最終公演が仕事でどうしても観られなかったのが本当に本当に残念でなりません。
ABT 日本公演では
ニーナのオデット/オディール、
ホセのバジル とかけがえの無い貴重な上演を体験出来ました。
ディアナ・ヴィシニョーワの「マノン」はもちろん最後の公演ではありませんが、それらに匹敵する素晴らしいパフォーマンスでした。
古典でもコンテでもヴィシニョーワの才能は飛び抜けていると思います。
キャリア後半を迎えつつある彼女の舞台はもう待ったなしで見逃せないものとなりそうです。
デ・グリュー
マルセロ・ゴメスは F 嫁がファンです。
過去の来日公演でのロットバルトで殺られたらしいですw
神学生でありながら美少女に惚れて身を滅ぼすというとっぽい役柄ですが、これってマノン以上に素の性格が現れるような気がしてます。
ゴメスのデ・グリューは、そうあって欲しいと思わせる完璧なデ・グリューでした。
寝室のパ・ド・ドゥ途中で上手から下手へ移動する際、ヴィシニョーワのスカートが背中に引っかかって降りてこないことがありました。
向かい合っていたのでゴメスの側からはよく見えなかったはずですが、さりげない動作でサッと左手をのばして解消しました。
いやパートナーがよく見えているものだと感心ししました。
そしてその細やかな心配りがアクロバティックなリフトで空に昇るバレリーナから信頼されるのでしょう。
もうひとつ。上にある二枚連続の写真の右側、ウチでは俗称「カニバサミw」と呼んでいるパの場面です。
ヴィシニョーワは腕と脚の動きに合わせて 2 回、顔を相手側〜客席側へと動かしました。
ゴメスはそれに合わせて自身の顔も一緒に動かしたのです。
他の映像を探しても男性で顔を動かすダンサーは見つかりませんでした。
ほんの小さな部分ですがふたりの動きに一体感が出てよかったです。
マクミランはどーしてこの動きを考えたのでしょうね。とても好きな場面です。
おっと F 嫁が自分にも語らせろと背中を突いています。
以下は F 嫁の感想です。
以前、ABT の白鳥の湖でロットバルト/ゴメスに殺られたF嫁です。
ヴィシニョーワとゴメスのお二人、絵的に美しい〜間違いないと期待して楽しみにしていた「マノン」でした。
でも見終わってみれば、想像以上のものが…
終わってからもしばらく寝ても覚めても 「デ・グリュー祭り」 の私でした。
最初デ・グリューが薄いブルーの衣装で舞台に立った時、
「あ〜美しい」そう思いました。
そして彼が踊りだして…誠実なステップを踏んで…
でもちょっと(ディアナ/マノンに比べて)大人しすぎる?かしらと思ったのもつかの間…
なんだか、身体全体が放つオーラが切ない。(すみません、バレエから離れていて)
近くから見ているので、お顔を歪めたり、小芝居をしていないのはわかるのですが、なぜだか切ない。
踊りは端正なのに切ない。
そのうちに、彼が踊る時、ジャンプするときにまったく音がしないのに気づきました。
私の席は一番前。
以前別のダンサーの時にドスンドスンと音がして(一番前の席はある意味興ざめするな〜)と思った事がありました。
無音ゴメスに相対するディアナもジャンプの後は無音。トウ立ちするときに「カツン」と音がするのみです。
凄いものを見ているのかも…と総毛立ってきました。
激しいのに無音。オケの音を取り除いたら、真空の中で情愛を語っているふたり。
デ・グリューはマノン一筋。
切ないほど純情。こんな良い男が純情なんて。(すみません、超個人的な感想で)
いやいや、こんなに思われたのなら、女として本望です。
デ・グリューにリフトされる時、回転する時、マノンからは「生命」「ライブ」がほとばしります。
明日はわからないけど、今は幸せ。生きているって素晴らしい。
最終的に物語は悲恋でしたが、音楽を思い出すと切ないデ・グリューの姿が思い出され、
私は翌日もどっぷりマノンの世界に浸っていたのでした。
こんな気持ちになったのは、バレエ鑑賞では珍しい出来事です。
良い映画や本を読んだ時の後のような満足感とともに素晴らしい(超絶的な)踊りを見れた事は、
「バレエはすごい芸術なのだ」と再確認する事にもなりました。
デ・グリューにときめいたのも今回が初めて。
マルセロ・ゴメスというダンサーの華、凄さを感じた夜でした。
以上 F 嫁がお送りしました。
ムッシュー G・M
F はヴィクター・バービー大好きです。
擦り切れるはずのない DVD が劣化しそうなほど見た ABT 時代バリシニコフの「ドン・キホーテ」
ガマーシュでありながら踊りまくって小芝居しまくって主役を喰っていたバービーに惚れたもんです。
あれは故パトリック・ビッセルのエスパーダもありお宝映像で、K-Ballet への影響はかなり大きいと思ってます。
バービーは過去の来日公演で「白鳥の湖」の式典長役で観られてラッキーと思いました。
その際、RB のサー・アンソニー・ダウエルみたいに重要な脇役で観たいと書きましたがまさに今回その通りになったのです。
ムッシュー G・M はお金持ちですが脚フェチの色ボケでもあります。
上流階級の慇懃さと性癖のイヤラシさ(脚フェチを否定するものではありません。どちらかというと…)を両方にじませないといけません。
これもあれですよね、やはり若過ぎたりハンサム過ぎたりしてはダメですよね。
本家 RB 最近の G・M であるクリストファー・サウンダースはやや上品寄り、以前のウィリアム・タケットはお洒落な長身の紳士という感じ。
そうそうサー・アンソニーは底知れぬ狂気を感じさせて良かったです。
バービーの G・M は恰幅の良いいかにも金持ちといった風貌です。
見初めたマノンを睨めつける視線は適度にいやらしく、おかしな言い方ですがとてもよい雰囲気でした。
デ・グリューの下宿でのマノン、レスコー、G・M の脚にスポットを当てた踊りでもしっかりとした足腰で健在ぶりを示しました。
寝台に座ったマノンの脚にむしゃぶりつく仕草もよかったです。
バービー G・M の特徴は“怒り”だったと思います。
イカサマが発覚してテーブルをひっくり返すシーン、再びやって来たデ・グリューの下宿で怒りに任せてレスコーを射殺するシーン。
今まで見たどの G・M より激しい憤怒が伝わってきました。
若い頃一時代を築いたダンサーが、脇役ながら舞台に厚みを持たせる重厚な役どころで活躍するというのは羨ましい限りです。
ABT において芸術監督のケヴィン・マッケンジーを補佐する立場の副芸監であるヴィクター・バービー。
今後も ABT の芸術面で無くてはならない人材であり続けることでしょう。バヤデールの大僧正が観てみたいです。
レスコーの情婦
ソリストであるミスティ・コープランドが演じました。
女性では数少ない黒人の、とても綺麗な容姿のバレエダンサーです。
いちばん最初に「マノン」の舞台を見たのが 2005 年の RB 来日公演でした。
その時の情婦はソリスト時代のサラ・ラムだったんです。
レスコーの情婦というと清楚な彼女のイメージを覆す熱演がずっと脳裏に焼き付いていました。
コープランドのそれは美人でカワイイんですけど情婦という屈折したものは感じませんでした。
身体能力は高いと思いましたが、ちょっとバタバタした踊りに見えてしまって…
次へ次へと急ぎ過ぎというか、もう少しだけねっとり余韻が欲しいように思えました。
マエストロ
ABT 音楽監督のオームズビー・ウィルキンズさんが指揮を担当しました。
白髪長身のウィルキンズさん、我々は下手最前列だったので指揮を真横から観る形になりました。
マエストロの指揮はたいへん情熱的です。
盛り上がる場面では身体の上下動に加え、歌い出さんばかりの表情が楽しいです。
実際に歌っていたのかもしれません。
バレエ指揮はシンフォニー指揮者とは違う魅力があると思います。
自分の棒ひとつで音楽とダンサーまでもコントロールできる仕事は楽しいでしょうね。
東京シティ・フィルも熱演でした。
ABT
アメリカン・バレエ・シアターの「マノン」は初めて舞台で観ました。
全体的に本家ロイヤル・バレエに負けないプロダクションだと思いました。
セットは最初奥行きのある素晴らしいものだと思いましたが時折薄っぺらにも感じられ…
一度しか観ていないのであまりはっきりしたことは言えませんが、これはやはりコヴェント・ガーデンの勝ちかなと。
ただセット転換で緞帳裏からのドスンバタンの雑音がほとんど聞こえなかったのは優秀だと思いました。
酷い場合はスタッフの罵り声まで聞こえますからねぇ。最前列にいましたからその点は保証します。
コール・ドがフォーメーションを組んでの群舞などは無いのですが、ほんの数人の踊りでもやはり揃いませんねw
意図的にパを順送りにする振付が多用されていましたが、それでいてもスムースにつながらないのはどうかと。
カッチリキッチリとシンクロするのはカンパニーのキャラクター的に難しいのかもしまれせんね。
そのかわり舞台の隅々まで演じるという意味では優秀でした。
あちらこちらで小さな芝居や諍いなど、センター以外からも目が離せません。
娼館でのシーンで上手後方にいた情婦達が口論を始め、ひとりがワインをぶっかけられたのを目撃しました。
その後の切り返しも見事でつい周辺に目をやってしまい、視線的に慌ただしいことこの上なしです。
すべてが舞台芸術であり、主役の踊りに対し決して価値が劣るものではありません。
端から端まで楽しみ尽くしたければたくさんの眼球が必要でしょう。
でもなるべくそういった周囲の努力も汲み取るようにしたいと考えています。
そういえば高級娼婦で元ロイヤル・バレエのジェマ・ボンドを見つけて嬉しくなりました。
あいかわらず綺麗でしたね。
コール・ドには日本人女性のバレエダンサーが 2 人登場していました。どちらも頑張ってほしいと思います。
加治屋百合子さんはソリストですが、当日は役がついていなく観ることは出来ませんでした。
「マノン」
バレエ「マノン」は大好きな演目です。
マクミランの濃密な振付けも魅力ですが、シンプルでわかりやすいストーリー、ダンサーの魅力をストレートに伝えるパ・ド・ドゥ。
とはいえ話としては悲惨でとてもお子様向けとは申せません。
逆に言えば白鳥やらくるみやらをバレエの典型と見て敬遠している大人に観てもらいたいですね。
どうしてスカート(チュチュ)が横に広がっていてパンツが見えてんの?と真顔で聞かれたことが何度かあります。
「マノン」であるならそうした衣装的な違和感は少ないと思われます。
ABT の「マノン」は木曜日のソワレと土曜日のマチネでした。
木曜日はともかく土曜日の公演全体の楽日まで席が埋まっていなかったのは残念な事です。
「マノン」のような大人向けの演目が海外カンパニーの日本公演から潰えないようにしたいものです。
この舞台の素晴らしさを伝えるには甚だ頼りない拙文ですが、そのほんの小さな一助になれば幸いです。
本公演のプログラムに各界の著名人が文章を寄せていました。
その中のひとつにバレエダンサー小林十市さんの実弟である落語家の柳屋花緑さんのものがありました。
その文章につけられた表題がこの舞台を観ることができた F & F 嫁の心情を完璧に表現していたのでここに引用させていただきます。
“バレエ公演の記憶は人生の宝物”